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パソコンとともに生きてきた【森博嗣】新連載「日常のフローチャート」第20回

森博嗣 新連載エッセィ「日常のフローチャート Daily Flowchart」連載第20回

 

【パソコンの進化はなによりも凄かった】

 

 しかし、やがて便利なソフトがどんどん発売されるようになった。一番便利だな、と感心したのはワープロである。「一太郎」などは、完成度が高くて、初めて「作るより買った方が良い」と思えたソフトだった。それでも、まだ図形出力のプログラムなどは自分で書いていた。

 あるとき、Macが学生向けに半額で売られるキャンペーンが生協で実施され、個人で初めてMacを購入した。半額といっても40万円くらいしたと思う。それでも、このMacのシステムには驚いた。なるほど、これからはこうなるのか、と気づかされた。

 それ以来、大学でもMacを買うようになり、解析プログラムもMacで走らせるようにした。当初は、Macはプログラミングには向かない、と思われていたが、走らせてみると高速で、充分に使えることがわかった。これは、CPUの性能による差だった。

 パソコンは、この頃からどんどん性能アップしたけれど、一番の変化は、安くなったことだ。周辺機器も含めて、なにもかもがとんでもなく安くなった。

 いろいろな工業製品がある。住宅、車、電化製品など、どれと比べても、パソコンの性能アップと低価格化に比べられるものは存在しない。とにかく、もの凄い進化だったのだ。数十年の間に、性能は100倍以上になり、価格も10分の1になった。トータルで、1000倍になったといえる。自動車だったら、400万円の高級車が4000円で買えるようなった、と想像してもらいたい。

 プログラミングしなくても良くなったのも大きい。しかも、必要なソフトは全部最初からシステムに組み込まれている。ワープロも、表計算も、最初から無料でついてくる。バージョンアップも、ネット経由で行われるし、ほとんど無限というほど記憶容量が大きくなった。もう、なにもいうことはない。なにも求めるものはない、というレベルである。

 それと同時に、僕はパソコンにも、コンピュータにも、ネットにも、興味を失った。もう出る幕ではない、といったところか。自動車なら、ちょっと昔のレトロな車を運転したら楽しいだろうけれど、昔のパソコンをわざわざ動かしても面白くない。そもそも、そんなものは手に入らないし、入ったとしてもソフトやインターフェイスやデータの互換性がなくて使えないだろう。

 とはいえ、今も書斎のデスクには5台のMacと1台のNECマシンが並んでいて、このうち常時3台をモニタに表示させている。ただ、何をしているのかというと、ただネットを見たり、文章を書く程度のこと。計算能力が要求されるような使い方はしていない。

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✴︎森博嗣 新刊『静かに生きて考える』発売忽ち重版!✴︎

 

 

森博嗣先生のBEST T!MES連載「静かに生きて考える」が書籍化され、2024年1月17日に発売決定。第1回〜第35回までの原稿(2022.4〜2023.9配信、現在非公開)に、新たに第36回〜第40回の非公開原稿が加わります。

 

 

 世の中はますます騒々しく、人々はいっそう浮き足立ってきた・・・そんなやかましい時代を、静かに生きるにはどうすればいいのか? 人生を幸せに生きるとはどういうことか?

 森博嗣先生が自身の日常を観察し、思索しつづけた極上のエッセィ。「書くこと・作ること・生きること」の本質を綴り、不可解な時代を見極める智恵を指南。他者と競わず戦わず、孤独と自由を楽しむヒントに溢れた書です。

 〈無駄だ、贅沢だ、というのなら、生きていること自体が無駄で贅沢な状況といえるだろう。人間は何故生きているのか、と問われれば、僕は「生きるのが趣味です」と答えるのが適切だと考えている。趣味は無駄で贅沢なものなのだから、辻褄が合っている。〉(第5回「五月が一番夏らしい季節」より)。

 

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森博嗣

もり ひろし

1957年愛知県生まれ。工学博士。某国立大学工学部建築学科で研究をするかたわら、1996年に『すべてがFになる』で第1回「メフィスト賞」を受賞し、衝撃の作家デビュー。怜悧で知的な作風で人気を博する。「S&Mシリーズ」「Vシリーズ」(ともに講談社文庫)などのミステリィのほか、「Wシリーズ」(講談社タイガ)や『スカイ・クロラ』(中公文庫)などのSF作品、また『The cream of the notes』シリーズ(講談社文庫)、『小説家という職業』(集英社新書)、『科学的とはどういう意味か』(新潮新書)、『孤独の価値』(幻冬舎新書)、『道なき未知』(小社刊)などのエッセィを多数刊行している。

 

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